世界で一番美しいモノを見た。

台風が秋の雨雲を刺激して、これから訪れる街に雨粒の汽笛を鳴らす午後
せわしなく動いている人混みの中
ボクはその中の一組の黄色い雨具と赤い長靴を身につけた小さな子とお母さんらしき人が街路樹の下にいた
親子連れらしき人に視線を固定した。

この場所から彼らの会話は聞こえない。
ボクは彼らを見下ろす形で高い場所にある駅のホームから眺めていた。

ふと、お母さんらしき人が傘を差した。

ボクはそのあとその小さな女の子が起こしたアクションに本当に目を奪われた。

女の子は街路樹からぴょんと一歩踏み出し
右手のひらをやんわりと、力なく、雨粒の根がある雨空を見上げた。

・・・
美しかった。 本当に美しかった。
全てを奪われた感じがした。
間違えなく、雨上がりの光り輝いている世界より美しかった。
ダブルレインボーもムーンボウも
どんな美しい愛を表現する言葉よりも
どんなすばらしい音楽もあの光景には萎縮してしまうだろう。


その3秒前の過去が一瞬で過ぎ去り
小さな女の子は手を引っ張られお母さんらしき人が持つ傘の下に吸い寄せられた。
しばらくしてホームにアナウンスが鳴り響き
雨粒のコートをまとった電車が雨粒の音をかき消して滑り込んできた。。