それはまるで映写機の中の満月 (4th/Sept./2009)

実際に選択したコト
定時上がりが出来たのに少しがんばり
満月がはっきり見えたら帰ろうとしたけれど
見えるのは真っ暗な夜空だった。


席に座り窓の向こう側に視線を落とした。
いつもとは全く違う乗り心地のシートは
アスファルトのゆがみを素早く伝え、少し乱暴に僕の身体を揺らす。


会社の前にあるバス停から僕は自分の家に向かっている。
乗り合わせている人たちはお年寄りか制服を身にまとった10代ばかりで
同年代と思わせる人はほとんど見かけない
きっとまだ仕事をしているのだろう。すこしばかり罪悪感にも似た何とも言えない感情がふっと浮上した


歩道側に座った僕の視線の先は徐々に暗くなる街並み
道路側からは笑い声が聞こえてきて
じっと景色を見ていた僕のいる空間だけが街並みと笑い声の境界線になって
どちらにも属さない光の届く海底と届かない深海の狭間にいるようだった。


・・・

街並みから少し目を離し、中空を眺めるとそこには大きな満月が一瞬見えた。
ビルを通り過ぎ、次のビルのわずかな隙間にみえる満月
コマ送りの満月
映写機に映ったようなスロータイムフルムーン。
0.2ルクスの明かりを僕はじっと見つめたくて
視線を動かさずじっとしていた。


突如静寂を破る停車を伝えるブザーが鳴り響き
車内にほんの少し明かりが増えるかわりに
バスは軽くなっていき
終着前には3人になっていた。
一番最後に僕はバスを降り、先に降りた2人の背中に
「お疲れ様」
と言ってみた。


だいたいの人はここで今日の冒険は終わるだろう。
でも
僕の旅はまだ終わらない。
次のバスを使い、また違う駅に向かうために
少しずつ我が家に近づくために初めてのバス停の前で待つ。


そんなとき
無表情のバスがゆっくりと僕に向かってきた。。