鋼鉄の鼓動 深海魚が見た光(18th/Nov./2008)

実際に選択した事
やり残したモノを明日の風に任せて、近道である線路沿いを進まず遠回りで駅に向かう。
そして、すんなりと快速に乗り家路につく。


エンターキーを力強く、スナップをきかせてたたいた。


地鳴りのように押し寄せた仕事の山を
僕はカムを使わず絶壁を一気に登ったようにあり得ない速度で終わらせた。

気がつくとオフィスには僕の場所だけ光りが灯され
その光景はまるでスポットライトを照らされたスターのようだ。
信じられるのは終わるまでずいぶんと時間が経過したという事。
この心地よい疲れは多くの時間が進んでいったということの証明のようで
時計を見るより正確に感じることが出来た。

・・・ため息とともに疲労がジトっと漏れた
いつの間にかもう23時を過ぎていて
今から急いで帰っても最寄り駅からのバスの終電は終わっているのに気づく。


「今日もタクシーか・・・」


お金を稼ぐ手段である仕事が
一番お金を消費する要因という事が近頃疑問を持っていた。
とりあえず急いで駅に向かおうと荷物を片付け
コートをつかみ、ビルを飛び出した。


会社からの帰り道、誰かと話す機会なんて滅多にない。
何十、何百という人たちとすれ違うのにもかかわらず誰とも話さないって言うのは
一般的には当たり前のことなのかも知れないけれど
誰かの声と誰かに向ける声が無い夜の1時間半はこの世界から断絶していて
まるで深海に沈み込んだ肺ではなくエラを持った生き物になった気がしていた。

突き当たりを右に曲がり
駅があと少しというところで線路沿いを歩く。
まっすぐ伸びる線路の一番端っこの信号が変わる。
視線の先にある踏切から順番にけたたましい音が鳴り響き
時間差でバーが降ろされていき
まるでドミノのようつながって電車が通る事を知らせ始めた。
僕は音が鳴り響いていくのを横目に線路沿いを歩く。
前から光源が近づき、真横を通り過ぎた


激しい音


全ての音がその音にとって変わる。
しばらくするとその音が騒がしいだけではなく
同じリズムを刻み始めているのに気がついた。


枕木を踏みならすリズムがダレカの心臓の鼓動のように耳に残る。
遠い昔に聞いたことがあるような鼓動
もしかしたらボクは
この孤独とも言えるほの暗い深海からダレカの息づかいを何年も前から聞いていたのかも知れない。


急に誰かと話したくなった。
鞄の中に手をつっこんで暗闇に沈む携帯を拾い上げ、開いた。
液晶画面が放つ灯りが僕の顔をぼんやりと照らした。


もうそこにはもう深海魚の面影はない。。