白を溶かす黒 5th/Mar./2009

実際に選択したこと
手挽きコーヒーミルを買わなかった。

昨日から降り続く雪がすべての色彩を無彩色に変えてしまった。

仕事が午前で終わりになり、電車も遅れ気味で
家に着くまでいつもより1時間も余計に掛かったけれど
こうして無事に暖かい家に帰って来れた。

僕がこの街に暮らし始めてからこんなに長い間色のない世界を目にするのは一度もなくて
そのせいかベランダから見えるこの風景がなんだかうさんくさく感じて
空も景色も白に埋もれている世界の中から
僕は無意識にまだ埋もれていない色を探し始めた。


信号の赤、黄、緑
人々が空にかざす傘
走り去る車のヘッドライト


数えるほどしか見あたらない色彩に僕は
「このまま降り続いたらすべての色がなくなってしまうんじゃないか?」
・・・そんなコトまで思ってしまうほど、雪は軽く、フワフワ舞っているなか
僕はこの白い風景に飲み込まれないように台所へと向かい
コーヒーを入れる準備を始めた。
豆を手挽きコーヒーミルに入れ、雪が舞い落ちるようにゆっくりとハンドルを回すと
ふんわりといいニオイが漂い始め
湯を注ぐ頃には僕のいる場所が色ではなく、ニオイで明確に線引きされた。


黒くて苦いあの飲み物が
僕の中に積もり始めていた雪を溶かし始めた。。